恋塚正隆の連載コラム

【連載】バックアップの真実
第7回 「クライアント・バックアップ」

この連載でたびたび登場した"シンクライアント"ですが、元祖シンクライアントはメインフレームのダム端末(今でも業務の現場では沢山使われています)です。今日のシンクライアント技術はWindows、X-Serverコンソールとアプリケーションを実行するCPU本体を切り離すクライアント/サーバ型の技術です。シンクライアントを利用する大きなメリットは、クライアント側には何も有効なデータが無いのでコンソールが壊れたら家電品のように交換が可能なことです。また、データはサーバ側にあるので集中管理による運用管理コストの削減が図れます。データ、アプリサーバを集中化すると高度なストレージ技術、バックアップ技術が使えるのでデータの安全性は非常に高くなります。WebブラウザやAjax技術を使ったクライアントアプリケーションもシンクライアントの一種だと言えますが、どんな場合でもバックアップすべきデータが無くなるわけではありません。

オフィスの中だけで仕事をするならばシンクライアントだけで仕事をして、バックアップ等のPCの運用管理を全てシステム管理部門に任せることができます。ということで、ブレード型PCを使ったシンクライアントは個人的にも会社で使ったら便利かな、と思いましたが、ちょっと窮屈そうなのですぐにあきらめました。シンクライアント導入のキャッチフレーズは"コーポレートガバナンス"、"セキュアクライアント"というものが多く管理面での強化を大きく全面に出しているからです。これも時代の流れですが、ノートPCを必要としている仕事ではシンクライアントとノートPCを併用するというのはデータの所在がまったく違うので大変なことになりそうです。Windowsのオフライン・ファイル機能を使うと何とかなりそうだ、という気がしますが、実際に使ったことが無いので何とも言えません。同期ツールはいまでもいろいろと使っていますが、使い方を誤るとファイルを失ってしまうことがあるので、どんな問題が起こりそうなのか使ってみてから運用方針をしっかりと立てておく必要があります。

シンクライアント、クライアント・バックアップといったことを考えていると、ふと、本当はWindowsを使いたいわけではなくアプリケーションを使いたいだけなんだ、と気がつきます。データが持ち運べれば、アプリケーションはどこで動いてもいいし、OSが何かなんて本当はどうでもいいのです。データが Windowsファイルフォーマットのディレクトリに格納されている必然性もありません。AjaxアプリケーションはOSの呪縛から逃れる方法になるかも知れないと思いながら、現実的には妥協してVMware、VMwarePlayer、VirtualPCで様々なアプリケーションの実行環境を構築している自分がいます。仮想環境に構築されたアプリ実行環境は基幹系システムの構築でも非常に注目されていますが、個人のPC環境でも非常に便利なものです。作り上げたアプリ環境を丸ごと DVD-RWにコピーして必要な場所に持って行くことができるからです。実験的にアプリを使っている場合はいつでも必要なチェックポイントまで戻れるという安心感もあります。短期間だけしか使わないアプリ環境は使い終わったらすぐにスクラップすれば、きれいさっぱりと環境からなくなるのでスッキリします。PCを買い換えたときは全てのアプリを仮想環境に載せようかと考えたこともありますが、そこまでは決心がつきません。ライブCD(CD起動できるOS、アプリ環境)やUSBメモリから起動できるKNOPPIX(Linux)を使うとアプリ環境を持ち運ぶことができますが、バーチャル・アプライアンス(用語参照)がある環境に、環境の差分と自分のデータをUSBメモリで持ち込めば"どこでもオフィス"が実現できるかもしれません(いまでも直ぐに)。

さて、オフィスの中ではOffice系のソフト以外にもWebベースのグループウエア、ポータルを使っていることが多いと思います。Webベースのグループウエアのようなアプリケーションでは、扱うデータをバックエンドで動くRDBMS に格納しているものが多いので、データ保護の観点では非常に堅牢なシステムになっています。最近のRDBMSは可変長の大きなバイナリデータもハンドリングし、ジャーナルとして管理できるので、そのような仕組みを使えば非常に強固なファイルシステムが作れる、というのがオラクルのiFSです。RDBMSとしての本来の機能も使え、コンテンツ管理および検索システムとしても強力なプラットフォームになっています。同じ視点でマイクロソフトはWinFSをWindows V ista用にリリースしようと計画しましたが中止になってしまいました。壮大な計画過ぎて挫折したというところですが、LonghornでトランザクショナルNTFS として同様なものが生き残る予定です。

このようなトランザクション・タイプのファイルI/Oはデータ保護の点から非常に有用です。通常のファイルI/OがRDBMSのトランザクション管理と同じレベルのデータ安全性が確保されることになるからです。UNIXも含めてトランザクション・タイプのファイルI/Oを行うアプリケーションが急速に増えるとは思えませんが、LonghornがOSレベルでそのようなファイルシステムを実装してくるとアプリケーションばかりではなく、バックアップシステムそのものも大きく変わってくると思われます。Windows VistaがWinFSを実装できなかったのは残念ですが、トランザクション・タイプとまではいかなくても、変更されたファイルを直ちに検出してバックアップしてしまうデスクトップPC、ノートPC 用の"オートセーブ2"のようなアプリケーションもあります。最近流行りだしたCDP(Continuous Data Protection)の個人ユース版とでも言うべきものですが、私のPCには既にいろいろなこの手のアプリが載っているので、う〜ん、残念ながら試してみることができません。

用語:バーチャル・アプライアンス
意味:VMware社のコンセプト。OSとアプリがインストールされたVMwareの仮想環境で、すぐにアプリを使うことが出来る。

用語:CDP(Continuous Data Protection)
意味:通常のバックアップシステムはバックアップから次のバックアップの間に更新されたデータを保護することができません。CDPは更新されたデータを常に監視して直ちにバックアップする方式のことです。米国のストレージ業界団体SNIA(Storage Networking Industry Association)がCDP分科会を設置したのは2005年のことですが、実際にはCDPの歴史は古く、多くのシステムが企業では使われています。





JDSF データ・マネジメント・ソリューション部会
株式会社エクサ 恋塚 正隆
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