JEITAテープストレージ専門委員会コラム
「ビッグデータは本当にビッグになるのか?
− 2016年に2030年のICTを占う − 」

 

GeSI(The Global e-Sustainability Initiative:欧州電気電子業界団体)はICTのサステイナビリティ(持続性)に及ぼす影響についてのレポートを定期的に発行しているが、昨年最新版がリリースされた。「#SMARTer2030 ICT Solutions for 21st Century Challenges」というレポートでは2030年を予測している。

 

2030年に世の中はどうなっている?

このレポートからいくつかの予測内容をピックアップしてみよう。

・つながるデバイスの数が1000億に達する
・新たに25億人がICTに接続され、16億の人が新たに医療サービスを受けられるようになる
・ICTでCO2排出量は20%減、2030年には2015年レベルにとどめることが可能となる。
・ICTの生み出す経済効果は6.5兆ドル、コスト削減効果は4.9兆ドル

このポートではさらにICTが効果を発揮すると予測される、主要な8つの分野についても記載されている。

 

ICTが活用される8分野

2030年までにICTで節約できる金額は世界規模で11兆ドル(約1320兆円)になると予測されている。世界最大の負債国日本の借金が帳消しにできる規模である。では具体的にどの分野でICTの効果が期待できるのかを見てみよう。

 

1.エネルギー

リニューアブルエネルギー、これは日本語では再生エネルギーと訳されているが、少し誤解を招く表現だ。いずれにせよ太陽光発電など、従来とは違う様々なエネルギーソースが出てきてそれが汎用の電力として組み込まれるだろう。ICTでより効率的にコントロールが可能になる。スマートグリッドとも呼ばれる分野だ。この分野だけでも1.8ギガトンのCO2削減が可能とされている。ビジネス規模も0.8兆ドルとなる予想だ。

 

2.ヘルスケア

ここでは"A DOCTOR IN YOUR POCKET,"という表現が使われているが、つまりスマートフォンを含むスマートデバイスで多くの医療が可能になるという。このe-healthサービスは2030年に16億の人たちがうけることが可能と予測されている。医療の分野もスピードが速く、常に新しい治癒方法、医療技術、診断手法が開発、発見されている。その中から最適なもを選び出すのはもう一個人では限界があるだろう。「こんな症状見たこともない」ような症例でも、世界中で見れば意外と多くあり、治療方法も確立されているかもしれないのだ。

 

3.ビルディング

日本でもBEMS(Building Energy Management System)といった取り組みがされているように、大きな効果が期待できる。ますます増える高層ビル群のICTによる効率化は、特に大都市では非常に多くの電力削減、空調用水の削減、そしてその中で働く人たちの快適度を上げる効果が見込まれる。いわゆるこの「スマートビルディング」により2ギガトンのCO2、0.4兆ドルの電力コスト削減が見込まれている。

 

4.ワークプレース

ビデオ会議等による通勤、出張の削減、いわゆるe-workにより生み出される経済効果は0.5兆ドル、労働者1人につき100時間が節約される。すでにこのような環境がある筆者としては同意したいところだが、個人的には逆に直接会うことの重大さがより分かってきたような気がする。よりリアルな環境を再現できるデバイスが開発されればそのような懸念もなくなるのだそうか?

 

5.食糧産業

農業分野でのICT活用は最近日本でもかなり盛んになってきた印象があるが、「食」は生きていくうえで最低限必要なものである。世界人口と平均寿命が今後飛躍的に伸びるとされる中、この分野での改善は極めて重要だろう。このスマートアグリカルチャーにより、収穫の効率は30%上がり、無駄に捨てる作物も20%低減できるという。水も250兆トン削減、CO2は2ギガトン削減できる。

 

6.教育

e-Learningはすでにかなり浸透してきていると感じている。学習塾の講義をスマホで受けられるCMも良く見かけるようになった。2030年には4.5億人がe-Learningを受講するとされている。この分野、激化すると講師の人気合戦、タレント化が加速するだろう。眠くなる授業が敬遠されて、面白い講義ができる人材が尊重される時代。なんだか複雑な気持ちだ。

 

7.モビリティと流通

リアルタイム交通情報、スマート物流等により、より正確に早く、効率の良い物流が可能になる。ICTの導入により、3.6ギガトンのCO2が削減されると見込まれている。 さらに言えば、自動運転の実現により、人件費削減、人為的な事故の低減も大きく効率化に貢献するだろう。ロボットは眠らないし、食事もトイレも行かないのだから。

 

8.製造

忘れてはならない製造分野。Industry 4.0などでもICTの活用は非常に期待されている。それ以外にも「パーソナライズ化」というキーワードが入っている。今までの大量生産で同じものを使う時代から、個人それぞれにカスタマイズしたモノづくりができる素地が整いつつあるということだろう。3Dプリンターなどはその重要な役割を果たすのかもしれない。

 

いずれの分野でもキーとなるのはAI、機械学習等によるデータ分析だ。当然分析にはIoTをはじめとする多くのデータの長期にわたる蓄積が必要だろう。農業の分野など、年に一回しか収穫できないものもあるのであるから、2030年までと言ってもサンプリングのチャンスは後15回しかないのである。

 

 

一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) テープストレージ専門委員会
日本ヒューレットパッカード(株) 井上 陽治
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