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AIがタレントマネジメントを変える

(株)カオナビ CPO(Chief Product Officer) 井上英樹 

■データを集めて管理する時代は終わった

 40年後,日本の労働人口は今の6割になります。採用競争を勝ち抜くだけでは,企業の持続的な成長は望めません。これからの人事に問われるのは,「いかに採用するか」よりも「社内にいる人材の可能性をいかに引き出すか」です。
 「タレントマネジメント」という言葉は,すでに多くの企業に浸透しています。しかし,その実態は「人材データの一元管理」にとどまっているケースが大半です。スキルシートは整った,評価データも蓄積されている,それでも「このデータを何に使えばいいのか」という問いに答えられない組織を,多くの企業と向き合うなかで何度も見てきました。
 なぜデータが「貯まったまま」になるのか?
 理由はシンプルで,「集めた先のビジョン」が描けていないからです。データを入力する現場の担当者にとって,その作業が何につながるかが見えなければ,入力はただの義務になります。評価,スキル,面談記録,個人の志向性。これらがそろってはじめて人材データは力を持つのに,活用の設計がないまま収集だけが続く……タレントマネジメントが形骸化する最大の原因は,まさにここにあります。

■管理ツールから“意思決定のインフラ”へ

 こうした課題を乗り越えるために私たちが提唱しているのが,「タレントインテリジェンスTM」です。タレントマネジメントが人材データの一元管理や可視化を役割とするのに対し,私たちが次に目指すタレントインテリジェンスTMは,蓄積された人材データにAIを掛け合わせることで,具体的なアクションにつながる知見を導き出すことを目的としています。
 例えば離職リスクが高いと示されたとき,従来のツールは「高い」という事実を可視化するところで止まります。タレントインテリジェンスTMはそこから先,「なぜ高いのか」「どう動けば改善できるのか」という具体的な打ち手まで提案します。この差が,管理ツールと意思決定インフラの分岐点です。
 さらに重要なのは,その提案が汎用AIの一般解ではないという点です。私たちは4,500社の現場と向き合う過程で,各社固有のデータを蓄積してきました。企業ごとの状況に即した精度の高い提案は,こうした固有のデータからこそ生まれます。
 そしてその提案こそが,企業に「データを入れる意義」を実感させます。その結果,より質の高いデータが集まり,AIの提案精度がさらに上がるという,この循環こそが,カオナビが目指す独自のモデルです。人事担当者は事務作業から解放され,人と向き合う時間を取り戻せます。経営者はデータに基づいて組織の意思決定ができ,現場マネジャーはメンバーの強みを把握して生産性を最大化できます。データは「眺めるもの」から「経営を動かすもの」へと変わっていくのです。
 「勘と経験」を否定するつもりはありません。しかし,それだけに頼る時代は,静かに終わりに向かっています。人事という仕事の本質,人を見る,人を動かす,人を活かすという営みは,これからも変わりません。AIはその判断を支え,精度を高める道具です。データとAIを活用している会社とそうでない会社の差は,じわじわと,しかし確実に開いていきます。その分岐点は,遠い将来の話ではなく,今この瞬間の選択の中にあります。
 AIは人事担当者の役割を奪うものではありませ ん。AIが定型業務や分析を担うことで,人事担当者は人と向き合う本来の仕事に時間を使えるようになります。脅威として身構えるのではなく,心強い味方として積極的に使いこなしていただきたいです。

(月刊 人事マネジメント 2026年8月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
 ECサイト構築・支援企業にて、主に大手企業向けECサイトの構築を担当。その後、製品開発部門にて執行役員としてプロダクト開発と事業推進を統括する。2025年に当社に入社し、プロダクトマネージャーとしてプロダクト戦略を推進。プロダクトプランニング本部長を経て、2026年4月にCPOに就任。

>> (株)カオナビ
   https://corp.kaonavi.jp/