
「褒める」を超える! 「励ます」マネジメントのすすめ
(株)ワイズエフェクト 代表取締役/人財育成コンサルタント 余語まりあ
■人は成長していく動物だからこそ可能性がある
人が生まれながら持っているエネルギーの源になるのは「成長」ではないでしょうか。誰が教えたわけでもないのに寝返りを打とうと試みたり見知らぬ物に手を触れようとしたり,親が目を離せないくらい好奇心の塊で生きる力を発揮するプロセスは誰にでもあったでしょう。それがいつの間にか,自分の可能性を自分で狭めてしまうのは,日本の教育や家庭環境のなかで「成長」に対して嬉しい体験が減ってきているからかもしれません。例えば,日々の生活はどんどん便利になり不便さゆえの失敗の機会も少なく,だからこそ失敗に対しての恐怖心ばかりが増し,上手くいったことに関して特に認められる経験も減っているのではないでしょうか。
かつて私たちが子供の頃は電車を乗り継いで目的地まで行けるだけでかなり大きな成功でした。今は路線地図アプリがあるので自分でそこまで考えなくても画面に表示された通り乗り継いで行けば目的地に着くようになっていて自分の力で成し得た実感はあまり得られません。学生時代はそれで済むことがほとんどでも,社会に出たとたん正解がスマートフォンに出てこない場に直面し,そこで初めて自分で考え,自分で決めて行動する時空が広がるのではないでしょうか。それは今の便利な社会においては未知なる世界に等しいので「不安」を覚えるのも無理のないことだと思います。
そこでもし褒められたとしても何がどう良くて褒めてもらえたのかが分からない,あるいは,何が良かったのかにも気づけない状況に置かれてしまいます。そうなると,自分のなかに再現性が蓄積されず,「なんとなく褒められた」で終わってしまうのです。「褒める」というマネジメントは,一見相手を認めているようでも実はプロセスまで深掘りしなくてもできてしまうのです。そこで提案したいのが「励ます」というマネジメントです。
■対象者をよく知り,その力を信じて「励ます」
仕事において励ますには,一人ひとりをよく見る必要があります。結果だけを褒めるなら比較的簡単ですが,「励ます」の場合は対象者の行動プロセス,その変化などすべてにわたって興味を持って見続けていないとできません。イメージしやすい「励ます」の場面はお正月の大学対抗別駅伝でしょう。走者の背後から各大学の車が追従し,コーチ陣が声をかけていく様子。まさに今までの練習,走者のスキル,努力,経験等をすべて知っているからこそかけられる言葉の数々だと毎回見ていて思います。
「励ます」は一過性ではなく人が成長する喜びを思い返せる大事な体験になります。幼い頃に持っていた成長欲求をもう一度思い出せたらその瞬間から人はまた成長する喜びを感じられるようになります。人間本来の持つ力に気づけたらその気持ちを成功体験として人は繰り返そうと動き出します。
研修企画のミーティングなどではよく「研修で一時的にモチベーションが高まってもそれを維持できますか?」という質問をいただきます。その際には企業風土として「励ます」面談やコミュニケーションの仕掛けを取り入れていただくようお伝えしています。研修を受けてどのような変化があったか周りに気づいてもらえると,より「進化しよう」という気持ちの後押しになるのです。人には期待に応えようとする返報性の法則があります。マネジャー・リーダーの立場にある方には,興味を持って周囲のメンバーをよく見て,知ろうとして,変化に気づいたその場で照れずに「励ます」言葉をかけるよう伝えてみてください。きっと言っているご自身の気持ちにも温かな火が灯るに違いありません。
(月刊 人事マネジメント 2025年3月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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