
AIが導く管理職強化のポイント
(株)ジェイック 執行役員 兼 (株)Kakedas 取締役 古庄 拓
近年,管理職の業務負荷が高まっています。部下育成とチームの成果の両立は従来と同じですが,ハラスメント感覚や,若年層を中心とした就業意識の変化などを踏まえて,部下一人ひとりの潜在能力や可能性を最大限に引き出すマネジメント,いわゆるピープルマネジメントの難易度は確実に上昇しています。さらに未来の予測が困難なVUCA時代に業務の難易度も上がっています。
多くの企業で人事担当者が,管理職の能力向上,リーダーシップ強化をミッションの1 つに挙げていますが,当社には「管理職が抱えている課題や本音が分からず適切な施策を打てない」という声も寄せられています。こうした声を受けて当社は昨年,「キャリア相談プラットフォーム Kakedas」を通じて,外部のキャリアコンサルタントが中堅・中小企業の管理職,計55名に対して実施したカウンセリングの会話内容や面談後のレポートをAIで分析し,言語や思考・感情の分析を行いました。以下,社外との対話で見えてきた,管理職が抱える2つの本音と成長を後押しするポイントを紹介します。
■AI分析で見えた2つの本音とは
1つ目の悩みは「今後のキャリア」です。言語解析では「キャリア・面談」といったワードが頻出し,キャリア相談の機会を求めている管理職が多いことが分かりました。特に40代以上は,キャリア=昇進・昇格という感覚でこれまで経験を積み上げてきたため,今後のプライベートも含めたキャリア展望を描けずに迷走している方が多くいます。
2つ目の悩みは「職場の人間関係」です。「管理職・部下」といったワードも言語解析で頻出し,若手部下の価値観が理解できない,どうコミュニケーションを取り指導すればよいのか分からないと悩む声や,ハラスメントを不安視する声が見られました。事前アンケートの「相談したいこと」では,45%が「自分の性格や考え方を変えたい」と回答しており,難易度が高まる管理職というポジションにあって,自身のマネジメントやリーダーシップに自信を持てない方が多いことが見えてきました。
■管理職の成長を後押しするポイント
分析結果を踏まえて,管理職の成長を後押しするポイントを2つご紹介します。
1つ目は「今後のキャリアと仕事の目的・ビジョンなどを内省する機会の提供」です。「管理職だから仕事の目的は理解しているはず。昇進もしてきたのだからキャリアへの不安もないだろう」ではなく,内省の機会を提供し,自身の強みやモチベーションの源泉,過去のキャリアを棚卸して,プライベートも含めた今後のキャリアを描いてもらうのです。キャリアビジョンが持てると,業務への意欲が高まると同時に,リスキリング促進施策や管理職研修もより効果的になります。キャリアへの関心が高い若手社員を指導するうえでも,指導する側のキャリアビジョンが明確であることは重要です。
2つ目は,「若手社員に対応できるコミュニケーション術の学習機会」です。時代は変化していますので,管理職自身が受けてきた昭和や平成のマネジメントをそのまま実践していては,部下との信頼関係は築けません。一方でハラスメントを過度に恐れていても適切な指導はできません。まず部下世代の価値観を理解し,そのうえで,行動や成長を促す適切な指導方法やコミュニケーションスキルを学ぶことが重要です。説明力や説得力だけではなく,「対話力」を強化することがポイントです。部下との対話を重ねられるようになると,部下の心理的安全性を高め,部下の強みや意欲に合わせた指導を行えるようになるでしょう。
(月刊 人事マネジメント 2024年6月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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