
「守りの人事」から「攻めの人事」へ
野原グループ(株) 人事部長 竹中アキ
近年,企業経営や組織の成功のカギとして「守りの人事」から「攻めの人事」への転換が求められています。従来は,組織の安定性や従業員の安心感を確保するため,人事は「守り」に重点を置いてきました。しかし,競争の激化や変化の速いビジネス環境では,より積極的かつ創造的なアプローチが必要とされます。以下,「守りの人事」の強さと限界,そして,人事部門が積極的かつ戦略的な手法を取る「攻めの人事」へのキーポイントを考えていきます。
■「守りの人事」の強さと限界
「守りの人事」は,従業員の採用,配置,教育,評価,報酬などの側面で行われ,組織の安定性を確保するための人事活動を指します。組織の基盤を支える重要な役割と,労働環境の整備,法的要件を満たすための役割を果たしてきました。特に報酬である毎月の給料支払いは「当たり前」に行われることが前提であり,従業員との信頼を築く礎となります。
しかし,この「守りの人事」にも限界があります。人事部門自体が,サイロ化している業務,流動性が乏しい人員構成,事業組織との積極的連携の不足等で新たな(または能動的な)動きが取りづらい状況に陥っていないでしょうか。変化の激しいビジネス環境において,保守的な「守りの人事」だけでは企業の競争力の維持は難しいと考えます。競争力の維持・強化には,例えば,従業員のスキルや経験と事業のマッチングに重点を置き,組織の適応性やイノベーション能力・従業員満足度の向上を実現していくような「攻めの人事」への転換が必要です。
■「攻めの人事」への4つのキーポイント
組織の競争力向上に寄与する「攻めの人事」への転換には,4つのキーポイントがあると考えます。
@事業戦略との連携:人事部門は,事業戦略と緊密に連携し,人事戦略を立案する必要があります。組織のビジョン実現に必要な人材確保とその育成です。人事部門は,事業の戦略的パートナーとして,組織の成果を最大化するために活動します。
Aイノベーションと柔軟性の促進:人事部門は,従業員の能力開発や新しい仕組み(人事制度)の導入などを通じて,組織のイノベーションと柔軟性を促進する役割を果たします。従業員が新しいアイデアや手法を積極的に取り入れ,挑戦し,結果として「変化に対応できる組織文化」を醸成します。
B多様性と包括性の推進:人事部門は,採用活動や労働環境の整備を通じて,多様性と包括性を推進します。多様な背景や経験を持つ従業員が活躍できる環境を整備し,異なる視点やアイデアを事業に取り込むことで,組織のイノベーション力を高めます。
Cデータ活用と意思決定:データを活用した意思決定は,施策効果の予想精度を高めます。人材の評価,従業員のエンゲージメントの測定などでも,データとその分析,分析結果に基づく施策の実行が求められます。人事部門は,データの収集・分析能力を高め,より客観的かつ効果的に意思を決定します。
■「攻めの人事」がイノベーションをもたらす
組織の競争力と成長には,「変化対応とイノベーションの推進」「組織の意識と文化の変革」の2つが必要です。これらには,人事部門の積極的かつ戦略的な手法,つまり「攻めの人事」への転換が重要です。サイロ化された人事の枠組みや考え方を止め,柔軟性と創造性を持った取り組みが求められます。
人事部門は,組織のリーダー層と協力し事業戦略と連携することで,競争力強化と持続的な成長を加速できます。従業員に変革の重要性を伝え,その実現に向けた取り組みへの参加と協力を促します。「攻めの人事」により,従業員自身が変化を“自分ゴト”と捉え組織と共に成長していくことが大切です。
(月刊 人事マネジメント 2023年8月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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