
組織に“働きがい”を取り戻そう
(株)働きがい創造研究所 代表取締役 田岡英明
急速に進む少子高齢化は,企業にとって労働力不足といった深刻な問題をもたらしています。2030年には650万人不足するといった試算も発表され,この状況はますますひどくなっていきます。このような状況で,企業には人が集まり定着することと生産性の向上の2つが求められています。新型コロナウイルス感染症が問題になる以前より,企業は「働き方改革」の名のもと,人が集まり定着し生産性を向上させるための施策に取り組んでいましたが,思ったように進んだ企業は少なかったようです。その原因は人の心理における“大切な部分”が抜けていたことにあります。
■働きがいが低下する職場の実態と問題点
アメリカの臨床心理学者であるハーズバーグは「二要因理論」を提唱しており,従業員のモチベーション向上といった観点から注目されています。二要因理論は,給料・待遇・福利厚生等の「衛生要因」と,責任のある仕事を担当している実感・周りからの承認・成長実感等の「動機付け要因」からなります。ハーズバーグは,衛生要因は不満足を減らす要因で,動機付け要因は満足をもたらす要因だと説明しています。私は,ハーズバーグの衛生要因を“働きやすさの要因”,動機付け要因を“働きがいの要因”と捉えており,働き方改革が上手く進まなかった企業の実態として,この2 つのバランスに原因があると考えています。“働きやすさ改革施策”に傾注して“働きがいの要因”への施策が不十分であったため,従業員満足を上げられなかったのです。このことから離職が止まらず,生産性も向上しなかったのです。
従業員満足から考えると,従業員の心に満足ポイントが醸成されない原因として次のような職場の問題点が見えてきます。
@仕事が目的や意義を伴わない作業になってしまっている。
Aプレイングマネジャーである管理職が,プレイング業務に傾注しマネジメントが機能していない。
B自己成長を感じる内省の場やフィードバックの機会がない。
■組織の不活性は“働きがい”で解消できる
従業員に働きがいといった満足ポイントが醸成されれば,目的や意義をベースとした従業員の主体性が育まれ,組織は活性化していきます。では,人と組織にどのように働きがいを育んでいけばいいのでしょうか? 従業員の働きがいに関係する人と組織の課題を,ハーバード・ケネディスクール(行政大学院)上級講師のロナルド・A・ハイフェッツは,その著書『最難関のリーダーシップ』のなかで適応課題と呼び,従来型の問題解決型アプローチではなかなか解決できないと述べています。
そこで私は,人と組織に働きがいを育むために,ポジティブ型の組織開発アプローチをお勧めしています。方法はいたって簡単です。以下のような流れで実行していきます。
@人と組織の働きがいを見える化するためのアンケートやサーベイを実施する。
Aアンケートやサーベイの結果をもとに,組織内対話の場を設ける。
B自組織のコンセプトや強みの目線合わせをする。
Cコンセプトや強みを活かした働きがいに溢れる未来像を作る。
D未来像に向けた役割と行動計画を決める。
人と組織に働きがいを育むことができれば,従業員満足度は向上し,定着率と生産性は向上していくでしょう。そして,そのような風土が人を惹きつけていくのです。
(月刊 人事マネジメント 2023年1月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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