
活躍する“ポジティブシニア”を増やそう
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株) コンサルティング事業本部
名古屋ビジネスユニット 経営戦略部 チーフコンサルタント 吉川由香里
■シニアの活性化に悩む企業と職場
役職定年を迎えたハイミドル,継続雇用や再雇用で働くシニア社員の活かし方に悩む企業が増えています。仕事へのモチベーションが低く,時に扱いが難しく,時に周囲からお荷物と疎んじられているシニア社員の話も聞かれます。そうした職場ではシニア社員本人も周囲の人々も互いに不幸です。ギクシャクした人間関係からは高い生産性や良質の成果も期待できません。
今後さらに労働力人口の高齢化が進み,職場にはバブル期入社世代,団塊ジュニア世代が,シニア層として確実に増えていきます。シニア社員の活性化は,今や待ったなしの経営課題です。
■シニア社員のモチベーションは低いのか?
多くの企業で「シニア社員のモチベーションが低い」といわれますが,本当にそうでしょうか。
シニア社員はライン長やベテラン社員として経験も実績も豊富に持っています。しかし,そんなシニア社員にとっても,役職定年やキャリアのゴールとしての定年は初めて迎える急激な転機であり,戸惑い抗っているのです。変化対応に対する人の心理は,「戸惑い」から「怒り」へ,そして時を経て「諦観」,「受入」のプロセスを経るといわれます。役職定年,定年といった大きな節目を迎えると,慣れ親しんだ職場でにわかに第一線を退いた者と見なされます。この「戸惑い」の時期をうまく乗り越えられない人が少なからずおり,そうした人が職場で「モチベーションが低い」といわれているのです。決して「シニア社員だからモチベーションが低い」わけではありません。
健康寿命が長くなり,今の60歳は10年前に比べて,5〜10歳は若返りをしているといわれます。「まだまだやれるのに,なぜこの私が」と,処遇が下がり組織における役割も不明確で,自らの居場所が定まらない不安が,徐々に「怒り」となって表れ,周囲から「扱いが難しい人」となるのです。このようなシニアと職場の双方が不幸な状況を打破するには,適切な処方箋が必要です。
■シニア社員の新たな活かし方
第一線で活躍し組織をけん引しているミドル世代の時期から,今後訪れる転機をいかに乗り越え,どこに居場所を求め,どのような人生でありたいかをシミュレーションしておくことで,「黄昏シニア化」の予防は可能です。人生100年時代,定年はステップアップの一区切りと考えつつ,その後もシフトダウンせずに正社員時代と同様の気概で,次のステージへ向けて活き活きとポジティブに走り抜けられるシニアになることはできるはずです。
そのためには,役割も必要です。シニア社員の役割として,「周囲へのフォロワーシップの発揮」を求めてはどうでしょう。ライン長時代のリーダーシップではなく,プレイングマネジャーの頼もしい補佐役,部署を越えた若手育成役などを担ってもらうのです。培った知識,経験,ノウハウ,人脈そして洞察力を活かして直属長や人事の目が行き届かないところをきめ細かくサポートできれば,大切な次世代の担い手である若手の離職防止にもなります。
こうしたシニア社員への明確な役割付与は「人の役に立っている」という手応えを生み,働きがいややりがいにつながります。多忙で余裕のない昨今の職場環境だからこそ,活躍できる「ポジティブシニア」を養成するチャンスがあるのです。
社員のキャリア形成における初期段階から,「それぞれのステージに合った,活躍の仕方,能力の発揮の仕方がある」と本気で意識してもらうことが,「ポジティブシニア」を生み出すのです。
(月刊 人事マネジメント 2018年1月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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