
離職率改善の特効薬とは?
(株)アールナイン 代表取締役社長 長井 亮
近年の求人倍率の高まりにより,採用は激化し,良い人材の獲得競争が繰り広げられています。生産労働人口の減少により,この状態は今後も続くと思われ,採用が難しいからこそ,今いる人材が辞めないように定着戦略が必要になってきます。人材の定着はコストの削減にもつながります。HR-Pro『定着支援の重要性〜高離職率のコスト』および公益財団法人日本生産性本部『生産性調査報告資料』によると,新卒社員が離職してしまった場合の離職コストはおよそ200万円。中堅社員の離職コストはおよそ750万円といわれています。新卒社員の獲得にかかるコストは『マイナビ企業新卒内定状況調査』によると約50万円とされていますから,離職コストは採用費用の約4倍という計算になります。
■その打ち手は間違っている可能性が……
では社員の定着を促すために各社はどのような手を打とうと考えているのでしょうか。当社アールナイン『定着のための施策』の調べでは,人事制度の改定や福利厚生の追加などを新たに検討すると回答した企業は約6割を占めています。社内アンケートなどを実施してみると,多くの従業員が「人事制度」「福利厚生」「給与」などに不満を寄せていることから,そこの改善が定着につながると判断している事情がうかがえます。
当社では社員面談の代行を行っています。第三者が面談を担当することで,上司や会社に言いづらいことを聞き出す目的で提供しているサービスです。それら面談の場で社員たちの本音を聞くと,辞めたいと思った理由の8割は「人間関係」に行き着きます。制度や給与,福利厚生などは1割程度に過ぎません。「人間関係が良好なら多少給与が低くても頑張れる」と答える人が多く,定着を促すためには社内の人間関係の改善が最重要だといえます。つまり,企業側の思い込みによる定着のための施策は,実は打ち手として誤っている可能性が大きいのです。会社が社内アンケートを実施すると,従業員は自分たちにとってメリットのありそうな,制度や給与,福利厚生の改定などを要望したくなるものなのです。
■日頃からの部下の声を聞く面談が有効
では具体的に離職を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか? 定着を進めるうえで当社が推奨しているのは,上司と部下の面談です。近年「1on1面談」ともいわれ,部下に興味を持ち,耳を傾け,日常業務をはじめ困っていることや直近やりたいこと,将来やりたいことなどを定期的に聞くというものです。普段から話が聞ける状態や関係性ができていると,不満が溜まりにくく,部下が何を考えているのかが見えてきます。また上司に対して不満を持っていたとしても,日頃の会話により関係性が改善されていくと,不満も軽減していきます。毎週15分程度でもいいので,ルール化して話を聞く体制を作ってもらうと,驚くほど効果が出てきます。100店舗ほどを展開している飲食店にSVが定期的に店長に対して話を聞く機会を設けたところ,半年後くらいから離職率に改善効果が表れてきました。また,ある駐車場サービスを展開している企業では,契約社員の離職が多く,社内アンケートでは,正社員になれないことや給与水準が不満として挙げられていましたが,人事による定期面談を実施したところ,日頃の思いを伝える機会ができたことで,かつて挙げられていたような不満は減っていきました。
ただし,これらの面談には注意も必要です。部下の話をしっかりと傾聴することが大事であり,上司が自慢話を繰り広げるようなことになると,かえって逆効果になります。日頃から部下に興味を持って接することが離職率の改善に役立つといえます。
(月刊 人事マネジメント 2017年11月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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