
サーバントリーダーシップのすすめ
NPO法人日本サーバントリーダーシップ協会 理事長 / (株)レアリゼ 代表取締役 真田茂人
■“ぐいぐい引っ張らない”リーダーの時代
今までは,リーダーといえば“ぐいぐい引っ張る”というイメージがありました。「威厳があって,恐れられるのがリーダーの条件だ」と言う人もいました。しかし最近のビジネス界では,その“ぐいぐい引っ張る”代表格のようなカリスマリーダーが躓くような出来事がいくつも起きています。
一方,スポーツの世界こそ“ぐいぐい引っ張る”鬼監督・鬼コーチが定番でしたが,随分変わってきました。箱根駅伝を連覇した青山学院大学陸上競技部の原監督や,女子サッカーなでしこチームを優勝に導いた佐々木監督のように“ぐいぐい引っ張らない”タイプのリーダーの活躍が目立っています。
■正解のない時代の管理職の役割とは
ビジネスの世界では,環境の変化とともに活躍するリーダーのタイプがかなり変化してきました。右肩上がりの時代は,経験がモノを言います。キャリアの長いリーダーは正解を知っているので,“ぐいぐい引っ張る”ことが可能でした。リーダーが「答え」を教えてくれるので,部下も楽でした。言われたことに忠実に従えばよかったのです。反面,メンバーは自分で考え工夫する努力をしなくなります。受け身・依存な態度が身についてしまうのです。忠実だけれど自律的ではなく,また,言われたことをやっているだけなので,モチベーションも上がりません。
ところが,世の中は成熟して「正解のない時代」に変わってきました。経験が必ずしも「正しい」とはいえなくなったのです。しかし,人間は身につけた行動様式を簡単には変えられません。“ぐいぐい引っ張る”リーダーは相変わらず部下に自分の知っている「答え」を押し付けようとします。部下のほうも上司が良い「答え」を教えてくれるのを待っているのです。これでは,成果は出ません。
では,正解のない時代に管理職はどうすればいいのでしょう。部下の力を引き出し,組織全体で「正解を探す」ことが必要です。そこでご紹介したいのが,「リーダーである人は,まず相手に奉仕し,その後導くものである」という実践哲学=サーバントリーダーシップです。サーバントリーダーは自分ではなく部下を主役にします。部下が能力を発揮し,活躍できるように支援するのです。
■サーバントリーダーシップの特徴
□ 謙虚さがキーとなる……サーバントリーダーは謙虚です。自分は不完全な存在であり,知らないこと,できないことがあると認めています。「無知の知」といわれる状態です。変化の激しい「正解のない時代」では非常に重要なスタンスです。ですから他人の話に耳を傾けます。経験の浅い部下の話であっても,フラットな気持ちで受けとめます。
□ 癒しと元気を与える……自分の話を真摯に受けとめてもらえ,支援してもらえた部下は,傷つき疲れ果てた状態から癒されます。そしてモチベーションが上がり元気になります。サーバントリーダーは部下に癒しと元気を与えます。
□ 女性が取り組みやすい……女性の活躍推進が謳われ,女性管理職の増加が期待されていますが,管理職になることをためらう女性は少なくありません。その理由の1つが,古いリーダー像への抵抗です。「メンバーを“ぐいぐい引っ張る”なんて私には向いていない」と勘違いするのです。しかし,サーバントリーダーシップなら,女性も抵抗なく取り組めます。
□ 多様性やイノベーションに対応する……サーバントリーダーシップは個人を尊重し,相手の可能性を引き出し,コミュニティを作るので,多様性を活かし,イノベーションが起きやすい環境を形成します。まさに,今の時代が求めるリーダーシップです。
(月刊 人事マネジメント 2016年8月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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