
社員と会社が成長し続ける鍵とは?
日本人事経営研究室(株) 代表取締役 山元浩二
■中小企業が直面する,人材流出の危険性
「社長,今月限りで辞めさせてください」─営業で一番の期待の若手社員,田中君は,社長室に入ってくるなり,そう言い放って辞表を置いて出ていってしまいました。田中君は入社6年目の30歳。中途入社でしたが,本来持った素直さと頑張りで,15人いる営業社員のなかで常にトップ3の成績を残すレベルにまで成長していました。それがどうして今回のような結末になってしまったのでしょうか。
実は,同じように「優秀な若手社員が定着しない」という問題を抱えている中小企業が非常に多いのです。みなさんの会社では大丈夫でしょうか?
特に2013年後半から景気の回復を見込んで,各企業が採用を拡大,有効求人倍率も確実に上昇しています。さらに,政府も女性登用の促進,正社員の解雇規制緩和,定年の延長などの方針を打ち出しており,人材の流動化が一層進んでいくと思われます。
人手不足が続く中小企業は,一層採用が難しくなるだけではなく,優秀な人材を大手企業や雇用条件のよい他社にとられかねないリスクもはらんでいます。まさに,人材戦略なき中小企業は採用難と人材流出で骨抜きにされてしまう危険性があると経営者は認識しておくべきでしょう。
そうならないためには,全社員に働きがいを持ってもらい,イキイキと働く環境を整えることが重要です。中小企業の経営者は人材を起点にした経営に力を入れ,自社の付加価値を高めていく工夫が急務といえるでしょう。
■会社を辞めたくなる理由は「将来への不安」
人は社会に出た後,10年前後で自分の将来を見つめ直したくなるようです。30歳前後で転職を希望する人に“会社を辞めたい理由”を聞いてみると,「このまま会社にいてもスキルアップが望めない」「自分の将来像が描けない」「もっと世の中に貢献できる仕事をしたい」といった答えが返ってきます。彼らは,自分の将来に不安を感じて,明確に将来の夢や目標が持てる会社に転職したいと考えているのです。
では,なぜ将来像が描けないのでしょうか? 原因は2つあります。1つは,会社のビジョンが明確に示されていないこと,もう1つは評価制度がきちんと運用されていないことです。
「会社のビジョンが明確に示されていない」とは,経営理念や5年後,10年後の会社の目標,状態が明確になっていないということです。結果,自分が属している組織がどこに向かっているのかが分からず,行き先の分からないバスに乗せられているのと同じで,社員は不安になるのです。
「評価制度がきちんと運用されていない」とは,評価が明確でない,あるいは伝えられていないということです。自分自身の能力や貢献度が見えないので,成長意欲のある人ほどストレスに感じてしまうのです。
■鍵は“会社と個人のビジョンの一致”にある
私たちは創業12年になるコンサルティング会社です。この間,一貫して人事評価制度で人材と企業の成長を支援してきました。その実体験に基づいて導き出した答えは,「経営計画書」とそれに沿った「人事評価制度」の必要性です。理念や数年後の会社の姿,経営戦略を明確にし,社員の行動基準である評価基準に落し込みます。この「経営計画書」と一体となった「人事評価制度」の徹底運用により,メンバー全員が一丸となってビジョンを目指していく強い組織が実現します。
これが実現できれば,やりがいと目的意識を持って,自ら成長し続ける人材ばかりの成長し続ける集団となるでしょう。
(月刊 人事マネジメント 2013年11月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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