
「働きがいのある会社」になるヒント
Great Place to Work(R) institute Japan コンサルタント 今野敦子
当機関では,毎年1回参加企業を募り,公正なる評価プロセスを経て一定の水準に達した企業を「働きがいのある会社」(ベストカンパニー)として認定し公表しています。世界45ヵ国で展開しており,グローバル基準の調査手法を実践しています。近年,日本企業の「働きがい」向上を支援していくなかで感じるのは,意欲的な企業が増えてきていること,経年のベストカンパニーがさらなる企業文化の進化を成し遂げていることです。
以下,ベストカンパニーの好事例をご紹介しながら,職場の「働きがい」の向上に向けて一歩踏み出すことの意味をお伝えしたいと思います。
■「従業員の声」がベストカンパニーを決める
「働きがいのある会社」の企業評価では「従業員の声」に高いウェイトが置かれています。ベストカンパニーでは,この「従業員の声」なるアンケートの総合スコアがここ数年,上昇傾向にあります。理想の組織作りは一朝一夕には実現できないことから,企業が従業員に支持されるような「働きがい」向上努力を継続的に行っている,と言うことができます。
では,ベストカンパニーではどのような施策・プログラムを考案し,実行しているのでしょうか? ここ数年着実にアンケートの結果が上昇している「誰にでも特別に認められる機会がある」という質問項目を例に,具体的な事例を見ていきましょう。
■「感謝」の表現は企業それぞれに違う
A社には,全社レベルの表彰に加えて,善意ある個人やチームリーダーがささやかな予算で行う数多くのプログラムがあります。これは当時の社長が事業を起こして間もない頃から成果を挙げた社員に電話で感謝を伝えていたという創業者精神を引き継いだ取り組みです。
B社では,基本理念に「社員に対する敬意と尊重」を掲げ,人事評価制度に他の社員に対する日頃の言動をチェックする仕組みを取り入れています。これにより,上司,部下,同僚に敬意を払い相手を尊重する姿勢が浸透しています。
またC社では,「ありがとう」の気持ちをカードにして従業員同士で渡す試みが大変好評だったため,感謝の対象を外部パートナーにまで拡大させました。
一方,同様の感謝のカードを導入しているD社では,専用の箱に入れた後,大勢の社員がいる場で上司から渡すことが慣習となっています。“よい成果は周囲に分かる形で共有する”という企業文化が背景にあります。
このように,ベストカンパニーでは様々な工夫で従業員を「認める」,すなわち「感謝する」機会を創出しています。さらに,特筆すべきは,従業員にとっての施策は,経営理念・企業文化に沿った形で導入され,仕組み化した後も従業員の反応を敏感にとらえながら中身の精度を上げているという点です。もちろん,同様のプログラムを導入するにしても,企業文化,従業員の特性によって,「感謝」の表現は変わることもありえます。
■文化・歴史を踏まえた施策の導入が有効
何か新しいことを発想したり,導入したりする必要はありません。「採用」「教育」「評価」など人事の領域ですでに取り組まれている内容,またはそのプロセスのなかに,従業員の「働きがい」を見直す“向上の鍵”があります。当機関の評価ではそうした視点からプログラムの独自性も加点対象にしています。先行するベストカンパニーの好事例はもちろんヒントになります。手っ取り早く,そのまま取り入れる,という方法もあります。しかし,成功の前提としてその企業が長年培ってきた文化・歴史があることや,働く人材の特性は組織ごとに違う点にも配慮が必要です。何より大切なのはその会社に合ったやり方で,従業員のニーズを見極めることです。
(月刊 人事マネジメント 2012年1月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
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