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書評 2026.8

異質を認め合う組織

 経営人事の課題で「多様性」を扱うとき,女性・高齢者・障がい者といった属性の底上げが検討されがちだが,本書は一歩進めて「個別多様性」の実現を模索する。いわゆるDEIの概念にB(Belonging:所属感)を加えて「DEIB」と総称し,一人ひとりが承認欲求・自己肯定感を持てる姿を目標に置く。従来の“強い人事”がキャリア自律を妨げ,エンゲージメントを低下させてきたとするなら,タテ・ヨコ・ナナメで意見を交わす場を運営することで,コラボレーションを起こし,エンゲージメントの向上も期待できるのではないかと提案する。一方で,多様性には分断と衝突のリスクも内包していると認め,組織の力へ転換するマネジメントが重要だとも述べている。メンバーの責任範囲を明確にする,チームの心理的安全性を確保する,アンコンシャスバイアスを乗り越える,といった組織開発の9つの視点を整理したうえで,ケースを紹介しながら5つの取り組みを具体的に導く。多様性を高める段階から活かすフェーズへ移行期の打ち手が見えてくる1冊だ。

●著者:加藤守和/吉田亜希子  ●発行:日本能率協会マネジメントセンター
●発行日:2026年5月30日  ●体裁:四六版/255頁

小さな会社の「人材育成」はなぜやりきれないのか

 厳しくても優しくても人が育たない難しい時代に戸惑う経営者に,確かな打ち手を示す指南書。まず「優秀な1人」を採用・育成しても,次に続く人材が育たない限り会社は成長できないと述べ,複数の人材が成長しながら組織的に成果を拡大していく「レバレッジ経営」を説明する。そのうえで,経営者に必要なのは目指す先の“言語化”だと指摘し,カギとなる仕組みを「成長考課制度」と名付けた人事制度に落とし込んでいく。具体的には,3〜5年先の数字と組織図を描き,グレード制(例として9段階),考課項目(成果・行動・評価),賃金テーブル(評価と給与の可視化)で人事制度を構築。月1回程度のフィードバック面談を重ねながら運用していくという内容だ。給与は「優秀な1人」にこだわればコストだが,レバレッジ経営を前提にするなら投資になると解釈する。給与が下がる社員には激変緩和措置を用意し,最初から完璧な制度を求めず,トライアルを経てブラッシュアップしていけばいいと背中を押すと同時に,経営者の覚悟を求めている。

●著者:大神千穂 / 監修:小川 実  ●発行:アスコム
●発行日:2026年6月29日  ●体裁:四六版/256頁

ブリリアント・ジャーク静かにチームを壊す人たち

 「ブリリアント・ジャーク」とは「仕事の能力は高く優秀だが,協調性がなく周囲に悪影響を及ぼす嫌な人」と本書は定義づける。以前から存在するタイプだが,周囲のメンタルを壊したり,ガバナンスを崩壊させたりするケースが多発するに及んで,問題の顕在化を決意したと刊行の意図を語っている。実話を基に,6つのパターン(@王様,Aテリトリー防衛,B現実逃避,Cモーレツ,D暴走エース,Eネグレクト職人)に分類。対策では,モンスターを1人排除できたとしても,組織に病巣があれば,第二第三のジャークが出現するだけだと警告。破壊的なリーダーが,脆弱なフォロワーと助長する環境に支えられている構造を読み解きながら,組織内の共犯・共謀の作用を疑う。ジャークが氷山だとすれば,水面下には,組織文化,行動様式,能力,業務プロセス,役割分担,権限設計,体制,といった因子が隠れていると考察を深めていく。経営による介入策のほか,個人レベルのサバイバル術,自身が“闇落ち”しないための留意点も視界に入れて読み込みたい。

●著者:沢渡あまね/伊達洋駆  ●発行:三笠書房
●発行日:2026年7月10日  ●体裁:四六版/368頁

治療と仕事の両立支援

 2026年4月に施行された労働施策総合推進法改正の努力義務は,治療を受けながら働くための支援の仕組みを法制化したものだという。従来の「ガイドライン」から「指針」に変わり,特定の疾患,一部の企業の話ではなく,病気を抱えても働けるよう社会的規範を示した意味は大きいと,産業医でもある著者は評価。本書では,勤労者,企業,労働組合の三者の立場に分けてアクションポイントを綴っている。まず,勤労者には,医療者,支援者とのつながり方をガイドし,仮に「がん」と診断されても離職の即断は避けるべきだと諭す。職場には本人から申し出る必要があるので,症状,体調,働き方の希望などを言語化するスキルを課題に挙げている。企業には,ウェルビーイング,健康経営,人的資本との接点に着目し,経営戦略,人材戦略,産業保健の統合による組織力強化を訴える。治療と就業の両立支援の法整備が具体的に進んでいること自体に軽く驚くとともに,社員,人事,医療に切り分けて考える以前のレベルで,当事者意識を問われそうで焦る。

●著者:江口 尚  ●発行:生産性労働情報センター
●発行日:2026年7月15日  ●体裁:四六版/252頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki