杉並『歴史の大河は流れ続ける』のこと  (小林文人、2009年)

    原水禁運動(安井家)資料研究会『ひたすらに平和願えり』(2009年)所収
   *関連:小林「研究会の歩みと活動」(2008年版)→■



 杉並に住んで、早いもので30年ちかくになります。国立から杉並に引っ越した頃(1980年)、杉並では「公民館を存続させる会」が活発に動いていました。東京には公民館がない、そのなかで杉並には、初代館長に安井郁氏を迎え(1953年)、原水禁署名運動の拠点となった杉並区立公民館の歳月があり、全国的に光彩を放ってきたのです。その公民館が姿を消すかもしれない、という当局の動きに抗する市民運動。
 当時の東京学芸大学・社会教育研究室メンバーも誘って、荻窪の「存続させる会」会合に参加するようになりました。とくに園田教子さん(現姓・平井)が積極的に関わってきました(1983年に修士論文「都市公民館論ー東京都杉並区公民館・安井構想について」)。
 「存続させる会」の熱のこもった聞き取り、資料収集活動をもとに、『歴史の大河は流れ続ける』の編集が進められました。その中心のお一人が安井田鶴子さん。しかし第1集が刊行される直前、安井郁先生は病い重く、亡くなられたのでした(1980年3月2日没)。
 私たちには衝撃的なことでした。第1集の末尾「解説」(小林)にそのことを書いています。田鶴子さんは「そのうちに原水禁運動や公民館について本を書きたいと申しています、皆さんにお会いする日が楽しみ。」と何度も繰り返されたことを憶えています。悲しみの中、田鶴子さんは『歴史の大河は流れ続ける』の編集・刊行に没頭されたような感じがします。

 第1集は、いまは懐かしいガリ版刷り。頁をめくると、ほのぼのと当時の思いが伝わってきます。第1集から第3集まで、杉並公民館についての証言・資料収集にエネルギーを注いだ編集。こんな貴重な歴史をもった公民館を失っていいものか、存続させようという熱い思い。
 第1集構成の白眉は、なんといっても安井郁館長が直接に企画担当した「公民教養講座」(1954〜1962)の復元です。第一級の講師陣、毎回のプログラム編成(レコードコンサート、講師の講演、安井館長「世界の動き」の組合わせ)、その系統性と継続性、は圧倒的な迫力。それを発展させて、杉並公民館では1980年代に市民主体の「公民館講座」の取り組みが注目されました。

 第2集は、貴重な(幻の原稿といわれた)安井郁氏の社会教育・公民館構想の掲載と、詳細な「関連年表」(1945〜1962年)。この頃から私たちは、戦後初期公民館「寺中構想」に対峙して「安井構想」という視点を語りあいました(園田さんと)。年表作成とこの号の「解説」は園田さんが担当しています。

 第3集も杉並公民館の歴史を復元する編集、「解説」は田鶴子さんの担当。そして第4集が注目の「原水爆禁止署名運動の関連資料集」です。安井家資料は、このとき初めて世に出た!といっていいと思います。この号には、田中進さんが長文の「解題ー杉並区における原水爆禁止署名運動と公民館の歴史について」を書いています。編集に関わったメンバー(9名)それぞれが編集後記を書いています。
 私たちの安井資料研究会の前史、そして本報告『ひたすらに平和願えり』の源流は、『歴史の大河は流れ続ける』にあるのかもしれません。その現物はもう入手できなくなりました。図書館資料としてもなかなかアクセスできません。というわけで、せめて「目次」一覧だけでも以下に掲げて、記録としておきます。


○杉並区立公民館を存続させる会編『歴史の大河は流れ続ける』
  目次
 第1集(B5版、36頁、1980年4月)、第2集(B5版、56頁、1981年5月)
      第3集(B5版、83頁、1982年8月)、第4集(B5版、149頁、1984年8月)


  @第1集ー杉並公民館の歴史
     はじめに(伊藤明美)
     民衆と平和(抄)(安井郁)
     安井田鶴子氏に聞く(横山宏,「月刊社会教育」1979年2月号より再録)
     公民教養講座(1954年〜1961年、園田教子)
     関連年表(園田教子)
     おわりにー解説(小林文人)

  A第2集ー杉並公民館の歴史(2)
     特別区の社会教育ー民主社会の基礎工事として(安井郁)
      幻の原稿(解説・安井田鶴子)
     杉並公民館で開かれた安井郁先生最後の教養講座
        ー1962年6月16日の日記を見て(斉藤鶴子)
     杉の子読書会について(島原スミ)
    <インタビュー>杉並の社会教育実践ー初期公民館をふりかえりー
               (樫村嘉治ー聞き手・伊藤明美、園田教子)
     解説・いま歴史の流れをうけつぎながら(園田教子)
     関連年表(1945年〜1962年)

  B第3集ー杉並公民館の歴史(3)
     社会教育の基地(安井郁、「月刊社会教育」1958年6月号より再録)
     公民館成立の前後(菊池喜一郎、松田良吉、中村幸雄、橋尾勇、文責・田中進)
    <座談会>杉並公民館初期青年学級をふりかえって(記録する会、藤本俊司)
    <鶴見和子氏にインタビュー>綴り方運動をめぐる婦人の移り変わり
                           (文責・伊藤明美)
     安井郁館長の戦前・戦後ー細谷千博氏へのインタビュー(文責・園田教子)
     杉並図書館の前史ー畔柳哲男氏に聞く(文責・園田教子)
     公民館設置に関する審議経過(杉並区議会定例会速記録)
          昭和27年4月16日、5月30日(臨時会)、8月27日
          昭和28年3月、10月(条例審議)
     戦後杉並の社会教育概観(生野忠志)
     解説ー歴史の流れを未来に向けて(安井田鶴子)
     編集経過報告

  C第4集ー原水爆禁止署名運動の関連資料集
     水爆禁止のための署名簿
     杉並アピール
     原水爆禁止署名運動杉並協議会に関する記録
      1,魚商組合陳情ー原水爆禁止署名運動の前史として
      2,水爆禁止署名運動杉並協議会発足
      3,第一回実行委員会開催ー区議会議長、教育委員らの協力及び新聞発表
      4,署名運動杉並全区への拡大ー隣接区への拡大、第二,三回実行委員会
      5,運動は全国的なものに
      6,原水爆禁止世界大会にへ向けて
      7,杉並区議会議事録
     証言ー菅原トミ(魚屋)、飯野カク、小沢綾子、大塚利曽子(婦人団体)
     昨日の風はビキニの灰を運び、今日の雨は放射能を帯びる
     牧田喜義氏の手記(「改造」1954年9月号)
     原水爆禁止運動の論理と倫理ー歴史的社会的条件の尊重(安井郁「民衆と平和」)
     新聞記事(スクープ「読売新聞」1954年3月16日朝刊等)
     歴代公民館運営審議会委員名簿
     解題ー杉並区における原水爆禁止署名運動と公民館の歴史について(田中進)
     付ー参考・引用文献一覧
     原水爆禁止署名運動関連年表
     編集日程、編集後記(編集委員: 安井田鶴子、園田教子、山田幸子、生野忠志、
            田中進、川添れい、藤本俊司、小林文人、伊藤明美、大塚利曾子)





1980年夏・杉並公民館を存続させる会「歴史の大河は流れ続ける」(第1集)編集会議
 左より 川添れい、安井田鶴子、小林、大塚利曾子、伊藤明美、の皆さん(園田教子・撮影) 



旧杉並区立公民館 (老朽化のため閉館―1989年―直前、左方に旧区立図書館があった


杉並公民館閉館記念行事・講演会 (1989年2月23日)



*杉並公民館・安井家資料研究サイト→■  関連写真→■


                    
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